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【バスクへの旅その7】サン・セバスティアン「Mugaritz」の★2ランチ 理解不能

長らくお休みをしておりましたこのブログですが、やっと文章を書く気力も戻ってきましたので再開しますー。去年の夏に訪れたバスク、今さらなのですがぜひぜひみなさんに訪れてほしいのです。

【バスクへの旅その6】はビアリッツだったので、サン・セバスティアンにもどります。この旅の目的の一つでもあった★2つのレストラン「Mugaritz(ムガリッツ)」へ訪れた時のことはいろいろな意味で一生忘れられない思い出です。場所はサン・セバスティアンからタクシーで15分ほどの日本で言うなら「里山」のステキなところ。こんなところに星付きのレストランが!という感覚は、日本でも流行っている鶴岡のアル・ケッチャーノや弘前のダ・サスィーノみたいな感じでしょうか。そうそう、こういうレストランの標識はイタリアでもよく見かけましたが、ちゃんとした交通標識です。たぶん。イタリアではそうだったので。

一軒家レストランは広大な敷地で、店の広さの5倍くらいの大きさの駐車場を構えています(みんな飲酒運転なのだろうか・・・)。2階は従業員の宿舎のようです。敷地には花やハーブや野菜がたくさん植わっていて、見たことがない種類もたくさんありました。ステキな一角なんですけれど、天気が今一つで、カラッと青空だったらどれだけステキだったでしょうか。

ヨーロッパのちょっといけてるレストランに行くとよくあるのが、日本かぶれ。日本じゃ好まれないあのフォント、どこからもらったのかとおもいきや日本の料亭でした。もうちょっとセンスの良い物あげればいいのに。

ランチの予約は13:30でしたが、私たちの到着は一番。この部屋で飲み物を飲みながら待たされました。予約の時間になってもなかなか別棟の店内には案内されません。でもこういうゆったりした流れにいらいらする人もいないし、みんなせかせかしたスケジュールを立てたりしない。スペインってそんな国です。日本人は見習いたいけれど、もう血が違うんですね。

店内に案内されるととっても広く、日本だったらついつい3倍のテーブルをいれてしまいそう。そこにおもむろに2つのカードが。ちゃんと日本語で書かれています。

「150分反抗してください」

「150分委ねてください」

またきたよ、日本語かぶれか〜と思って中を開けると、

「不快、動揺、苛立ちに反抗する150分 苦しみへ反抗する150分」

「感じ、想像し、発見する150分 瞑想の150分」

日本にかぶれた人が辞書を引きながら書いた日本語だから意味が分からないんだと思い、英語版ももらって、iPhoneで辞書を引きながら読んでみてもまったく同じ内容。はて?と言う顔をしていてもウェイターは意味ありげに笑顔を浮かべるだけ。とりあえずよくわからないけれど食事に入ることにしました。

「手で食べるのはイヤじゃないか」というので、「問題ないよ」と言うとしばらくカトラリーを使わない料理が。ちなみに渡されたメニューには18品載っています・・・。

最初の一品。写真の上が「Refreshing “bulgur” drink」。まるで米のとぎ汁・・・。ちょっと塩味がついています。氷が溶けるのでいつまでも飲み終わらずなかなか下げてもらえませんでした。出だし「ええ?」って感じです。bulgurとは乾燥させた小麦のことのようです。

写真左は、大きくならないうちにもいだキュウリ。これはとってもフレッシュで旨みが凝縮されていておいしい。調理をしないのも調理なんですかね。

写真右は「An envelop of flowers」。オブラートの中にたくさんのお花と甘いピーナッツクリーム。どうやって食べていいのか聞くと、そのまま口に運べとのこと。でも中が見たくて開けてみました。まさに今摘んで入れたというようなお花がたくさん詰まってる。オブラートに包む事で口に入れた瞬間に鼻に香りが抜けるんです。そういや去年閉店して話題になった★3つの「エルブリ」の映画を観たときに、このオブラートの話しが出てきて、「日本ではこれに粉薬を入れて飲むらしい。それをヒントにして料理を作ってみたよ」と話していたな。ここのアンドニも彼から影響を受けたのかもしれないなー。そんなわけで日本人である私は料理としてオブラートをすんなりと受け入れられません。

「Grilled pueraria focaccia」。帰ってきてからわかったことですけれど、プエラリアと言うマメ科の植物の花を使ったものみたいです。パリパリしていてあんまり味がなく、はて、これはなんのかしらと思いながら食べ終わってしまいました。

ムガリッツどうだった?と友達に聞かれると「石ころを出す店だよ」と言うと一番わかり易いのでそう答えるようにしています。それがこれ「Edible stones」。石ころだけでなく、砂も食べられます。「これ食べるの?」と言う顔をしている時のウエイターのドヤ顔がたまりません。

かじるとこんな感じ。ホクホクの新じゃがを甘いグレーのコートで覆っています。マヨネーズソースでいただきます。まぁここまでの料理が手でいただく料理なのですが、「おいしい」と言う感想より「なんじゃこりゃ」と思うことが多く、最初のカードにあった「不快、動揺、いらだち」がこの意味だったとよくわかります。それにそのまま反抗していいようなので、無理して「美味です」なんて言うつもりもなく、お客へのサプライズを喜んでいるんだなと思うことにしました。

ここからは比較的まともな料理が多く、この「Homemade mozzarella, whey emulsion infused with smoked black tea」はもっとたくさん食べたいと思いました。スモークした黒いお茶でホエー豚のお乳をモッツァレラにした?・・・。英語がよくわからずスミマセン。。。ちなみに一緒に行ったやまぴーはせっかくおいしいこの料理を思い切りこぼして、子供のようにテーブルクロスを二枚重ねにされていました。あわてっぷりがかわいかったなぁ。

「Daily flowers stewed with codfish」。たぶんゆりのような花だと思うのですが、そのユリの花をパスタに。旨味はタラ。ユリの花の天然の甘味がうまおいしい。

「Over a gelatinous pine nut cream , glutinous codfish and mastic resin」。なんだかよくわからないので後で聞くと、タラの腸を柔らかくし、松の実のソースを添えたものらしい。タラの腸までたべるところはさすがタラ文化の国だなぁ。日本もタラ文化の国だけれど、腸はどうやって食べているのだろう。

順番に厨房に案内してもらいいろいろと説明してもらう。テレビで何度も見たアンドニが当たり前のように腕を振るっているではないか!ここにずっと来たかった思いを切々と語り、一緒に写真を撮ってもらいました。日本は大好きなようで、交流のある日本人シェフもたくさんいるよう。スタッフは総勢35人で、日本人もひとりいるようで日本語で案内もしてくれました。アンドニは笑顔を絶やさず、どの人にも親切、丁寧。哲学的な料理が多かっただけに堅い人かとおもいきや、フレンドリな人柄にびっくりしました。一昨年厨房が火事で燃えてしまい、再建したそう。左に移っているのはチーフ。

「Fresh herbs. Mortar soup made of spices, seeds, and fish broth」。すり鉢のようなもので、ゴリゴリと自分でスパイスをすらされ、そこに魚介系のスープを注がれる。自分ですることでそこに漂う香りを感じ、そしてスープを注いだときの変化も楽しんでほしいというところかしら。ラーメンのダブルスープのようなものか?(なんて安っぽい表現だ)


「Line Cheese with chanterelles」シャントレルと言う変な形のキノコにまぁるいチーズ、そしてほんの少しの岩塩。うまいんですけど、この微妙なあじわいを私は感じとれていない気がする・・・。そしてこの杉の新芽みたいなのはなんだったんだろう。

 

「Shhhhhh…cat got your tongue」なんなんだこのメニュー名。。。またしてもシェフのドヤ顔が浮かんでくる。これもまたカードに書かれていたイラダチなのかー。まるで鳥の巣か枯れた草のようなんだけれど、実はオニオンフライで、そこにたっぷりとタンのスープを染み込ませてあるので食べた瞬間に口いっぱいにタンを感じるんです。この感じはカード二枚目の「発見」なのかもしれないなぁ。


「Silky bread stew , infused with pink geranium」蟹肉の下に、おそらくお麩なんだじゃないかな。そしてゼラニウムの香りがします。ハーブの畑によくゼラニウムが食用として植えられているのを見ますが、実際に料理に使われているのは初めて。この香り、慣れません。

「Grilled white tuna fillet , with “piparras”」ホワイトツナがどんな魚か具体的にわからなかったんだけれど、マスか何かじゃないかなぁ。半生で、その上に玉ねぎとししとうのペーストが乗っています。ししとうは中の種の部分はペーストにせずに乗せられているあたりがおしゃれ?

「Piece of beef , grilled steak emulsion and salt crystals」この店に来てはじめてシンプルな焼いただけの肉が出てきたよ。ただこのシルキーな舌触りの火の通し加減にどれだけの努力を費やしているかはわからず。素直にうまい。

「Iberian pork tails , crispy leaves and toasted sweet millet oil」イベリコ豚のテールの肉をパリっとでも口にまとわりつく感じ。北京ダックの皮に影響されているのかなぁ、にしても中華っぽい。イベリコ豚のうまみがここに凝縮されています。

品数が多すぎて、メニューをもらった時点で「わわわ」と思い、途中で少なめにしてもらいました。おかげで二品スキップしたようです。さてここからはデザート三品・・・。スペイン人の胃袋はどうなっているんだろう。

「A cup of chamomile dressed with a cocoa nectar. Candied fruits from the market」カモミールの風味のアイスにココアのソース、それにもものドライフルーツが入っている。このドライフルーツがいつまでも口にへばりついて不快。

「Broken walnuts , toasted and salted, cool milk cream and armagnac jelly」

まるでクルミみたいなんだけれど、実はミルクチョコでその中にはお酒の効いたゼリーが!でもクルミの中身もあしらわれていて、驚きがたくさん隠されている。

「Nails and flower」

ちっちゃなソフトクリームなんだけど、さびた釘が刺さってる!もちろんぜんぶ食べられます。下に惹かれた砂利も含め。

これで料理はフィニッシュ。でも本当は18品あったよう・・・。日本人の胃袋ではこの品数はいけません。この日のメニューはこんな風にあらかじめ渡されるのですが、私のメモと、アンドニ、料理主任、日本人スタッフのサイン入りで一生の思い出に(くちゃくちゃだが)。このメモがなかったらこのブログかけませんでした。

ここで最初に渡されたカードについて思いを巡らせてみることにしました。

「150分反抗してください」
「不快、動揺、苛立ちに反抗する150分 苦しみへ反抗する150分」

「150分委ねてください」
「感じ、想像し、発見する150分 瞑想の150分」

確かに「なにこれ?」とか「わけわからない」とか「食べにくい」とか反抗し、その中で「こういうのは初めてだな」とか「どんな風に作っているのだろう」とか瞑想したなぁ。ただし150分じゃないです。ランチですが210分。お店を出たのは17時過ぎです。ちなみにディナーは20時以降。

スペイン料理って伝統的なパエジャやフリット、ピルピルは浮かんだけれど、それとはまったく別のもので(日本だって懐石とうどんはぜんぜん別だもんな)ここではなんでもアリな気がしたよ。箸が出てきて竹の器に入っていても誰もびっくりしないだろうよ。これは映画「エルブリ」をみてもまったくそう思いました。

そしておいしさを求めているんじゃない、驚きとか発見、未踏の地へ連れて行く料理。だから「おいしかった?」って聞かれても「うーん、びっくりしたよ」と答えることにしてます。世界の食通どもはこんな驚きを期待しているんだなぁ。私はバル巡りの方がずっとおいしくて楽しかった庶民ですが、それでいいや~と思いました。